第7回身体が整うと、感じる力が戻ってくる
朝起きて、
「今日はちょっと疲れているな」
と思っていても、
「でも、仕事に行かなきゃ」
と、そのまま起き上がる。
お昼になって、
「お腹が空いたな」
と思っていても、
「もう少しこれを終わらせてから」
と、食事を後回しにする。
夜になって、
「もう休みたい」
と思っているのに、
「まだやることがあるから」
と、身体を動かし続ける。
そんなことはありませんか。
私たちは毎日、
身体からたくさんのサインを受け取っています。
疲れた。
お腹が空いた。
喉が渇いた。
眠い。
寒い。
暑い。
心地いい。
なんだか嫌だ。
もう休みたい。
本当は、身体はずっと教えてくれているのです。
けれど忙しく生きていると、
「こうしなければ」
という頭の声を優先して、
身体の声を後回しにしてしまいます。
身体には「感じる力」がある
管理栄養士として身体のことを学んでいると、
身体は本当に細やかに働いていることに気づきます。
お腹が空けば、空腹を感じる。
食事をすれば、満腹を感じる。
身体が疲れれば、休息を求める。
睡眠が必要になれば、眠気が出てくる。
暑ければ汗をかき、
寒ければ身体を温めようとする。
私たちの身体は、
「今の私はどういう状態なのか」を、
感覚を通して教えてくれています。
つまり身体は、
自分自身と会話するための入口でもあるのです。
ところが、
「これくらい我慢しなきゃ」
「みんなも頑張っているから」
「迷惑をかけてはいけない」
「今は休んでいる場合じゃない」
と、自分の感覚を何度も無視していると、
少しずつ身体の声が聞こえにくくなっていきます。
そしてあるとき、
「私は何がしたいんだろう」
「何が好きなのかわからない」
「どうしたらいいのかわからない」
そんな状態になることがあります。
人生のことを考えているようで、
実は、自分の身体の感覚から離れてしまっているのです。
食べることは、自分の身体に戻ってくる時間
だから私は、
食事という時間をとても大切にしています。
目の前に料理がある。
その色を見る。
香りを感じる。
一口食べる。
温かさを感じる。
歯ごたえを感じる。
味の変化を感じる。
そして、
「おいしい」と思う。
食事には、
頭で考えるのではなく、
身体で感じる瞬間がたくさんあります。
「今日はこれが食べたい」
という感覚もある。
「今日はあまり食欲がない」
という感覚もある。
「この味、おいしい」
という感覚もある。
その一つひとつを感じていくことは、
身体の声をもう一度聞いてあげることでもあります。
だから料理は、
単に栄養を摂取するための作業ではないと私は思っています。
料理をつくること。
料理を眺めること。
香りを感じること。
季節を感じること。
ゆっくり味わうこと。
それは、
自分の身体に戻ってくる時間でもあるのです。
身体が整うと、「感じる」が戻ってくる
身体に必要な栄養を摂り、
きちんと食べて、
休んで、
身体が少しずつ整ってくる。
すると、
今まで気づかなかった小さな感覚にも気づけるようになります。
「今日は少し疲れているな」
「今は休みたいな」
「この人といると安心するな」
「これはなんだか苦しいな」
「こっちのほうが心地いいな」
そんな小さな感覚です。
私は、この「感じる力」がとても大切だと思っています。
なぜなら、
人生を選ぶときに、
最後に自分を導いてくれるのは、
「こうするべき」という正解だけではないからです。
「私はどう感じているのか」
という、自分自身の感覚も大切だからです。
「本当はどうしたい?」が聞こえてくる
身体の感覚を取り戻していくと、
少しずつ自分との会話が始まります。
「今日は何を食べたい?」
「今、休みたい?」
「本当はどうしたい?」
「これは私にとって心地いい?」
そんなふうに、
自分に問いかけられるようになる。
そして、
「ああ、私は本当はこうしたかったんだ」
と気づくことがあります。
食べるものを選ぶことも、
休むことを選ぶことも、
誰と過ごすかを選ぶことも、
どんな仕事をするかを考えることも、
根っこには同じものがあります。
それは、
「私はどう感じている?」
という、自分自身とのつながりです。
自分の感覚を大切にすることは、自分の人生を大切にすること
私たちは、
「人生を変えたい」
と思うと、
何か大きなことを始めようとします。
新しいことを学ぶ。
仕事を変える。
環境を変える。
目標を決める。
でも、その前にできることがあります。
今日、自分の身体が何を感じているのかに気づくこと。
お腹が空いているなら、ちゃんと食べる。
疲れているなら、少し休む。
心地よいなら、その心地よさを味わう。
「なんとなく嫌だ」と感じたら、
その感覚をなかったことにしない。
「なんとなく好き」と感じたら、
その気持ちも大切にする。
それだけでも、
自分との関係は少しずつ変わっていきます。
身体の声を聞くことは、
わがままになることではありません。
自分を甘やかすことでもありません。
自分という存在を、
ちゃんと自分が受け取ってあげることです。
今日からできる、小さな実践
今日は一食だけでも、
「何を食べるべきか」ではなく、
「私は今、何を感じている?」
を意識して食べてみてください。
料理を目の前にしたら、
まず香りを感じる。
一口食べたら、
温度や食感を感じる。
そして、
「おいしい」
「ちょっと濃いな」
「今日はこれが食べたかったんだ」
そんな身体の反応を、そのまま受け取ってみる。
正解を探さなくて大丈夫です。
ただ感じる。
それだけです。
そして食事が終わったら、
「今、身体はどんな感じ?」
と、自分に聞いてみる。
身体との会話は、
そんな小さなところから始まります。
私は、どう生きたいのか
身体を整えることは、
ただ健康になるためだけではない。
私はそう思っています。
身体が整うと、
感じる力が戻ってくる。
感じる力が戻ると、
自分の本当の気持ちに気づけるようになる。
自分の気持ちに気づけると、
「私はどうしたいのか」
を、自分で選べるようになる。
だから、
身体を整えることは、
自分の人生を自分で選び直していくことでもあるのです。
誰かが決めた正解ではなく、
世の中の「こうするべき」でもなく、
自分の身体に戻って、
自分の感覚を取り戻して、
「私は、これが好き」
「私は、こっちが心地いい」
「私は、こう生きたい」
と言える自分になる。
私は、
食べることを通して、
そんなふうに自分自身ともう一度つながってほしいと思っています。
今日のごはんを、
ただ栄養を摂るための時間にしない。
自分の身体を感じる時間にする。
そして、
自分の人生を感じる力を、
少しずつ取り戻していく。
身体を整えることは、
自分を生きることの、
とても身近なところから始まっているのです。