第3回 「肝」が整うと、人生に伸びる力が戻ってくる
テーマ:「本当はどうしたい?」を取り戻す
⸻
「肝」と「木」は、なぜつながっているの?
東洋医学では、
自然界の変化と人間の身体や心の働きを、
「木・火・土・金・水」という五つの要素
―五行―で捉えます。
その中で、
「木」に対応するのが「肝」です。
ここでいう「肝」は、
現代医学でいう肝臓という臓器そのものではありません。
東洋医学では「肝」を、
肝気や肝血などを含む、ひとつの機能体系として捉えます。
その代表的な働きのひとつが、
「肝主疏泄(かんしゅそせつ)」です。
「疏泄」とは、肝が気の流れをのびやかに保ち、
身体や心の働きが滞らないようにする、
という東洋医学の考え方です。
そして、ここが「木」とつながります。
五行の「木」には、
生長すること。
伸び広がること。
のびやかであること。
という性質があります。
芽を出し、枝を伸ばし、葉を広げる木。
その姿に重なるように、
「肝」には「気をのびやかにする」という働きがある。
だから、
「木の伸びやかさ」と「肝の疏泄」
を重ねてみると、「肝」と「木」の関係が見えてきます。
⸻
自分を止めているものは何だろう?
木は、伸びようとする生命の力を持っています。
けれど、枝を押さえつけられていたら、
自由に伸びることができません。
私たちも同じです。
「こうしなければ」
「こうあるべき」
「人にどう思われるだろう」
そんな思いが強くなりすぎると、
自分の気持ちよりも、
周りの期待を優先するようになります。
本当は嫌なのに我慢する。
本当はやりたくないのに引き受ける。
本当は違うと思っているのに、合わせる。
そうしているうちに、
「私は、本当はどうしたいんだろう?」
が、わからなくなることがあります。
⸻
怒りは、自分を知る入り口になる
五行では、
「肝」と「怒り」も関連づけて捉えます。
ただし、
「肝=怒り」
という意味ではありません。
怒りが出たときも、
「怒ってはいけない」
と抑え込む必要はありません。
反対に、怒りのまま行動する必要もありません。
その間にあるのが、
「私は、何が嫌だったんだろう?」
という問いです。
さらに、
「本当は、どうしてほしかった?」
「本当は、どうしたかった?」
と、自分の内側を見ていく。
すると、
「自分で決めたかった」
「もっと自由にしたかった」
「無理をしたくなかった」
「大切にしてほしかった」
など、自分の本音に気づくことがあります。
怒りをなくすことよりも、
その感情を手がかりに、自分の望みを知る。
それだけでも、人生の見え方は変わってきます。
⸻
「こうしたい」を取り戻す
自分の望みがわかったら、
いきなり大きく人生を変えなくても大丈夫です。
今日は「NO」と言ってみる。
自分の気持ちを一度言葉にしてみる。
本当にやりたいことに、10分だけ時間を使ってみる。
そんな小さな選択からでいい。
木も、一日で大木になるわけではありません。
小さな芽から始まり、
季節を重ねながら、少しずつ枝を広げていきます。
私たちの人生も同じです。
毎日の小さな選択が、
「私は、こっちへ行きたい」
という方向をつくっていきます。
⸻
今日、自分に聞いてみる
もし今日、イライラすることがあったら、
すぐに感情を消そうとせず、少し立ち止まってみてください。
私は、何が嫌だった?
本当は、どうしたかった?
そして、
私は、どちらへ伸びていきたい?
と、自分に聞いてみる。
答えがすぐに出なくても大丈夫です。
長い間、自分の「こうしたい」を後回しにしてきたなら、
最初は「わからない」という答えでもいい。
問い続けることで、
少しずつ自分の声が聞こえてきます。
⸻
肝と木から、人生の方向を見つける
東洋医学の「肝」は、
西洋医学の肝臓と同じものとして考えるのではなく、
肝気や肝血などを含む独自の機能体系として捉えられています。
その代表的な働きのひとつが、
「肝主疏泄」― 気の流れをのびやかに保つこと。
そして五行では、肝は「木」に属します。
木が芽を出し、枝を伸ばすように、
私たちも、
「私は、本当はどうしたい?」
という問いから、自分の方向を見つけていく。
誰かの期待に合わせるためではなく、
誰かと同じになるためでもなく、
自分の内側にある小さな「こうしたい」を、
ひとつずつ大切にしていく。
それが、今回の「木」のテーマです。
伸びるとは、無理に前へ進むことではない。
自分の生命が向かいたい方向を感じ、
そこへ少しずつ枝を伸ばしていくこと。
その方向を見つけたとき、
私たちの中にある「伸びる力」も、
もう一度動き始めるのかもしれません。
⸻
東洋医学についての補足
ここで紹介している「肝」「木」「疏泄」「五志」などは、
東洋医学・五行論の中で用いられてきた概念です。
現代医学における
肝臓の解剖学的・生理学的な働きとは区別して捉える必要があります。
世界保健機関(WHO)も、
伝統医学の用語や理論を国際的に整理する取り組みの中で、
こうした伝統医学独自の概念を体系的に整理しています。
この連載では、
「東洋医学では、身体と心をどのように捉えてきたのか」という視点から、
日々の自分自身を見つめていきます。
東洋医学の知恵をひとつの視点として取り入れながら、
自分の内側にある声に耳を澄ませる。
その小さな気づきが、
自分らしい現実をつくっていく一歩になるのかもしれません。